怒りと悲しみを癒やす漢方薬

イライラするとき

「最近イライラするので、何かいい薬はありませんか?」

と看護師に聞かれることがあります。

 

いくつか候補があるのですが、抑肝散(よくかんさん)を挙げると、たいてい

「え~、抑肝散ですかぁ~、じゃあ、いいですぅ」

と言われてしまいます。

ずいぶん評判悪いですね。

でも、彼女たちの気持ちもわかります。

抑肝散が出ている人の多くは、問題行動のある認知症の人たちだから、認知症の薬だと思っているのです。

もともと赤ちゃんや子どもにも使われてきた薬であることなどを説明しても、いまひとつ納得してもらえないときは、無理はせず、別の薬を提案することになります。

 

でもね、抑肝散は漢方好きなドクターたちは、イライラしたときとか、眠れないときとかに迷わず自分が使うような、とてもいい薬なのですよ。

 

外来で変な人が来てイライラしてきたら、その場で抑肝散を飲むドクターもいます。

そうすると冷静に対処できるから。

周りのスタッフも

「あー、先生、イライラしたはるわ・・・」

とわかってくれるのだとか。

抑肝散はどんな薬?

抑肝散は、ひとことで言うと、気持ちの高ぶりを抑えるお薬です。

怒りっぽい人

不安やあせりがある人

せっかちな人

あせりやすい人

緊張しやすい人

が抑肝散を処方する症状の目安です。

イライラする時以外にも、

頭が冴えて眠れない

生理の前になると精神的に不調になるような月経前症候群(PMS)

まぶたがピクピクする

赤ちゃんの夜泣き

なども抑肝散の出番です。

昭和の熱血教師タイプの人にも抑肝散がお勧めです。

怒りと痛みの関係性

慢性疼痛に抑肝散が効くことがあります。

強い痛み止めを飲んでいるのに痛みがとれないとき、その背景に怒りが潜んでいることがあります。

怒りを素直に表出できたらいいのですが、社会生活を営んでいるとなかなかそういうわけにはいきません。

怒りは心の奥底にたまっていって、どんどん大きくなっていきます。

そのまま溜めこみ続けると、精神面の不調になってしまいます。

そんなとき、脳は「痛み」として身体の症状となって怒りを肩代わりさせるのです。

自分のミスでケガをした時よりも、相手のミスでケガをした時のほうが痛みが長引くといわれています。

過去の嫌な体験は、弱い痛みでも感じやすくなることがわかっています。

こういう理由から、痛みに抑肝散が効くのです。

こころの傷と抑肝散

こころの傷はトラウマとも言いますね。

怖い体験をすると、その場所に再び訪れたときに、そのことが思い出されて身体がこわばってしまったりします。

これは身の危険から守る大切な働きでもあるのですが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などにつながり、日常生活に支障をきたすこともあります。

 

恐怖体験の記憶は脳の海馬(かいば)でつくられます。

脳内の神経伝達物質であるグルタミン酸が増えると、恐怖記憶がつくられやすいことがわかっています。

抑肝散は、増えすぎたグルタミン酸濃度を下げることで、過去の嫌な記憶から想い起こされる不安を改善してくれます。

また、気のめぐりもよくなるので、ゆううつに傾いていた気持ちから抜け出して、調和のとれた感情を取り戻すことができます。

抑肝散はイライラや怒りだけに効くのではなく、不安をとる作用もある守備範囲のひろいお薬なのです。

 

 

 

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